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@7  — 追跡者の影(3)—

Author: 米糠
last update Last Updated: 2026-01-10 18:30:51

 — 追跡者の影(3)—

 翌朝、セリスとライルは《ルーヴェンの町》の図書館を訪れた。

 図書館は石造りの堂々とした建物で、町の中央広場に面していた。中に足を踏み入れると、古い書物の香りと静寂が広がる。天井まで届くほどの本棚がずらりと並び、かすかな蝋燭の灯りが影を作り出していた。

「ここなら、何か手がかりが見つかるかもしれないな」

 ライルは辺りを見回しながら呟いた。

 セリスは図書館の奥へと進む。

 歴史書や王国の記録が収められている棚を探しながら、ふと気づいた。

 ——古い時代の記録が、ほとんど抜け落ちている。

「ライル……これ、見て」

 セリスが手に取った本のページを開くと、エルセリア王国の記述が不自然に途切れていた。

 まるで、誰かが意図的に削除したかのようだった。

「……やっぱり、王国の記録は抹消されているのか」

 ライルが眉をひそめる。

 エルセリア王国の滅亡から十年以上が経過している。

 その間に、帝国によって歴史が改竄されたのだろう。

 だが、それでも完全に消し去ることはできないはずだ。

 セリスは慎重にページをめくりながら、小さな手がかりを探した。

 そしてしばらくして、セリスは一冊の古びた本を見つけた。

 『失われた王国とその遺産』

 表紙に刻まれた題名を見て、彼女は胸が高鳴るのを感じた。

 (もしかして……エルセリア王国についての記述が?)

 急いでページをめくると、そこには驚くべき内容が記されていた。

 ——《王の書庫》、エルセリア王国の王族が代々守ってきた知識の宝庫。

 ——王国の歴史、魔法、技術、すべての記録がそこに眠る。

 ——だが、王国滅亡と共に、その在処は歴史から消え去った。

「王の書庫……!」

 セリスは思わず声を上げた。

 もしこの《王の書庫》が本当に存在するなら、そこにはエルセリア王国の真実が眠っているはずだ。

 そして何より、彼女の持つ《記憶の継承》の力の秘密も——

「ライル、これ……」

 セリスが本を見せると、ライルはじっと内容を読み込んだ。

「……なるほど。つまり、お前の記憶を解き明かす鍵は、この《王の書庫》にあるってことか」

「うん……でも、場所は書かれていない……」

 王国が滅びる前に、王族の誰かが書庫の場所を隠したのだろう。

 だが、手がかりは確かにある。

「まずは、この《王の書庫》を探す手がかりを集めよう」

 ライルがそう言い、セリスは力強く頷いた。

 だが、その時だった。

 静寂の中に、異質な気配が混じる。

 図書館の扉が静かに開かれた。

 黒い軍服の男が二人、ゆっくりと中へ入ってくる。

 セリスは息を呑んだ。

「……帝国の兵士」

 彼らの肩には、見覚えのある紋章が刻まれていた。

 ——《黒鴉》の紋章。

 (追っ手が……もうここまで!?)

 ライルは素早く周囲を確認した。

 まだこちらに気づかれてはいないが、時間の問題だった。

「セリス、急いで外に出るぞ」

 ライルが低い声で指示する。

 セリスは本をそっと棚に戻し、静かに歩き出した。

 だが——

「待て」

 鋭い声が響いた瞬間、黒鴉の兵士が彼らを見つけた。

「……やっぱり、お前らが王女の残党か」

 男は剣を抜き、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「面倒なことになる前に、大人しく来てもらおうか?」

 その言葉に、セリスは震える拳を握りしめた。

 (ここで捕まるわけにはいかない!)

 ライルが剣を引き抜き、即座に構える。

「……悪いが、ここで捕まる気はねぇよ」

 緊迫した空気が図書館の静寂を切り裂く。

「セリス、下がってろ!」

 ライルがすかさず前に出て剣を構える。

 黒鴉の兵士の一人が低く笑った。

「……なるほど。確かに腕が立ちそうだな」

 言葉と同時に、兵士が踏み込んできた。

 ——ギィン!

 鋭い剣閃が交わる。

 ライルは瞬時に敵の斬撃を受け流し、カウンターを狙う。

 だが、黒鴉の兵士もなかなかの剣士だった。並の兵士であれば一撃で終わるはずの一刀が、難なく防がれる。

 ——チッ、こいつら、ただの兵士じゃねぇな!

彼の脳裏に警戒の色が走る。帝国が精鋭を送り込んできたということは、それだけ重要な目的があるということだ。

 ライルは直感した。

 (こいつら、帝国の精鋭部隊か……!)

 黒鴉は、帝国の特殊部隊。

 その中でもここにいるのは、尋問や追跡に特化した者たちだろう。

「王女の残党が、どれほどのものか……試してやるよ!」

 兵士が剣を振るいながら迫る。

 ライルは紙一重で回避し、カウンターの一撃を叩き込む。

 ——ガキン!

 しかし、兵士はすぐに体勢を立て直した。

「……やるな」

「お前もな」

 ライルは冷静に間合いを測る。

 一方で、セリスも状況を見ていた。

 (ライルが戦ってくれてるけど、私も……!)

 何かできることはないか。

 そう思った瞬間、彼女の頭にある記憶が閃いた。

 ——《魔導の記憶》

 (……そうだ、あの魔法なら!)

 セリスは素早く呪文を唱え始める。

「《ウィンド・バインド》!」

 彼女の声とともに、風が渦を巻いて敵兵の足元を絡め取る。一瞬、兵士たちの動きが止まった

「なっ……!?」

 足元に絡みつく風の鎖が、敵の体勢を崩す。

「ライル!」

「おう!」

 セリスの支援を受け、ライルはすかさず剣を振り抜く。

 ——ザシュッ!

 鋭い一撃が兵士の肩を切り裂いた。

「ぐっ……!」

 黒鴉の兵士は苦悶の表情を浮かべ、一歩後ずさる。

「チッ……!  仕方ない、撤退する!」

 傷を負った兵士が仲間に合図を送る。

 もう一人の兵士が、素早く煙玉を取り出した。

 ——パァン!

 煙が一瞬にして視界を覆う。

「くそっ、逃がすか!」

 ライルは剣を構え直したが、兵士たちはすでに姿を消していた。

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