LOGIN翌朝、セリスとライルは《ルーヴェンの町》の図書館を訪れた。
図書館は石造りの堂々とした建物で、町の中央広場に面していた。中に足を踏み入れると、古い書物の香りと静寂が広がる。天井まで届くほどの本棚がずらりと並び、かすかな蝋燭の灯りが影を作り出していた。
「ここなら、何か手がかりが見つかるかもしれないな」ライルは辺りを見回しながら呟いた。
セリスは図書館の奥へと進む。
歴史書や王国の記録が収められている棚を探しながら、ふと気づいた。——古い時代の記録が、ほとんど抜け落ちている。
「ライル……これ、見て」
セリスが手に取った本のページを開くと、エルセリア王国の記述が不自然に途切れていた。
まるで、誰かが意図的に削除したかのようだった。「……やっぱり、王国の記録は抹消されているのか」
ライルが眉をひそめる。
エルセリア王国の滅亡から十年以上が経過している。
その間に、帝国によって歴史が改竄されたのだろう。だが、それでも完全に消し去ることはできないはずだ。
セリスは慎重にページをめくりながら、小さな手がかりを探した。
そしてしばらくして、セリスは一冊の古びた本を見つけた。
『失われた王国とその遺産』
表紙に刻まれた題名を見て、彼女は胸が高鳴るのを感じた。
(もしかして……エルセリア王国についての記述が?)
急いでページをめくると、そこには驚くべき内容が記されていた。
——《王の書庫》、エルセリア王国の王族が代々守ってきた知識の宝庫。
——王国の歴史、魔法、技術、すべての記録がそこに眠る。 ——だが、王国滅亡と共に、その在処は歴史から消え去った。「王の書庫……!」
セリスは思わず声を上げた。
もしこの《王の書庫》が本当に存在するなら、そこにはエルセリア王国の真実が眠っているはずだ。
そして何より、彼女の持つ《記憶の継承》の力の秘密も——「ライル、これ……」
セリスが本を見せると、ライルはじっと内容を読み込んだ。
「……なるほど。つまり、お前の記憶を解き明かす鍵は、この《王の書庫》にあるってことか」
「うん……でも、場所は書かれていない……」
王国が滅びる前に、王族の誰かが書庫の場所を隠したのだろう。
だが、手がかりは確かにある。
「まずは、この《王の書庫》を探す手がかりを集めよう」
ライルがそう言い、セリスは力強く頷いた。
だが、その時だった。
静寂の中に、異質な気配が混じる。
図書館の扉が静かに開かれた。
黒い軍服の男が二人、ゆっくりと中へ入ってくる。
セリスは息を呑んだ。
「……帝国の兵士」
彼らの肩には、見覚えのある紋章が刻まれていた。
——《黒鴉》の紋章。
(追っ手が……もうここまで!?)
ライルは素早く周囲を確認した。
まだこちらに気づかれてはいないが、時間の問題だった。「セリス、急いで外に出るぞ」
ライルが低い声で指示する。
セリスは本をそっと棚に戻し、静かに歩き出した。
だが——
「待て」
鋭い声が響いた瞬間、黒鴉の兵士が彼らを見つけた。
「……やっぱり、お前らが王女の残党か」
男は剣を抜き、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「面倒なことになる前に、大人しく来てもらおうか?」
その言葉に、セリスは震える拳を握りしめた。
(ここで捕まるわけにはいかない!)
ライルが剣を引き抜き、即座に構える。
「……悪いが、ここで捕まる気はねぇよ」
緊迫した空気が図書館の静寂を切り裂く。
「セリス、下がってろ!」
ライルがすかさず前に出て剣を構える。
黒鴉の兵士の一人が低く笑った。
「……なるほど。確かに腕が立ちそうだな」
言葉と同時に、兵士が踏み込んできた。
——ギィン!
鋭い剣閃が交わる。
ライルは瞬時に敵の斬撃を受け流し、カウンターを狙う。
だが、黒鴉の兵士もなかなかの剣士だった。並の兵士であれば一撃で終わるはずの一刀が、難なく防がれる。——チッ、こいつら、ただの兵士じゃねぇな!
彼の脳裏に警戒の色が走る。帝国が精鋭を送り込んできたということは、それだけ重要な目的があるということだ。
ライルは直感した。
(こいつら、帝国の精鋭部隊か……!)
黒鴉は、帝国の特殊部隊。
その中でもここにいるのは、尋問や追跡に特化した者たちだろう。「王女の残党が、どれほどのものか……試してやるよ!」
兵士が剣を振るいながら迫る。
ライルは紙一重で回避し、カウンターの一撃を叩き込む。——ガキン!
しかし、兵士はすぐに体勢を立て直した。
「……やるな」
「お前もな」
ライルは冷静に間合いを測る。
一方で、セリスも状況を見ていた。
(ライルが戦ってくれてるけど、私も……!)
何かできることはないか。
そう思った瞬間、彼女の頭にある記憶が閃いた。——《魔導の記憶》
(……そうだ、あの魔法なら!)
セリスは素早く呪文を唱え始める。
「《ウィンド・バインド》!」
彼女の声とともに、風が渦を巻いて敵兵の足元を絡め取る。一瞬、兵士たちの動きが止まった
「なっ……!?」
足元に絡みつく風の鎖が、敵の体勢を崩す。
「ライル!」
「おう!」
セリスの支援を受け、ライルはすかさず剣を振り抜く。
——ザシュッ!
鋭い一撃が兵士の肩を切り裂いた。
「ぐっ……!」
黒鴉の兵士は苦悶の表情を浮かべ、一歩後ずさる。
「チッ……! 仕方ない、撤退する!」
傷を負った兵士が仲間に合図を送る。
もう一人の兵士が、素早く煙玉を取り出した。
——パァン!
煙が一瞬にして視界を覆う。
「くそっ、逃がすか!」
ライルは剣を構え直したが、兵士たちはすでに姿を消していた。
@ 王者の剣の継承 ——光が舞う。 セリスの剣が黄金に輝き、その刃から微細な粒子のような光があふれ出す。それはまるで、過去の王たちの記憶が形を成したかのような、神聖な光だった。 ヴァルドリッヒはその光を見つめながら、わずかに目を細める。「……それがエルセリア王家の“継承の力”か」 剣を持つセリスの手に、確かな感覚が宿る。これはただの武器ではない。これは—— 王の剣《エルセリアの焔》。 歴代の王たちの記憶を宿し、真の王が持つことでその力を解放する剣——。 (……これは、私の剣……!) セリスは剣を握る手に力を込めた。「王の剣は、王が使ってこそ真の力を発揮する。お前に、それができるのか?」 ヴァルドリッヒが静かに剣を構える。その眼光は研ぎ澄まされ、次の一撃で決着をつけるつもりなのが伝わってくる。 セリスもまた、一歩踏み出した。「……私は、王の力を証明する。エルセリア王国の記憶を、未来へつなぐために!」 その言葉とともに、彼女は駆け出した。 ヴァルドリッヒも応じるように剣を振るう。 ——閃光が迸った。 金色の刃と漆黒の刃がぶつかり合い、戦場に雷鳴のような衝撃を響かせる。 それは、かつて王と騎士が交わした最後の戦いの再現。 セリスは王の記憶をたどりながら、剣を振るう。だが、これはただの模倣ではない。過去の記憶に頼るだけではなく、自分自身の戦いを刻むための一撃——「——はあああっ!」 渾身の一撃が放たれた。 その刹那—— ヴァルドリッヒの剣が砕けた。 黄金の光が彼を包み込み、衝撃が戦場を駆け抜ける。 ヴァルドリッヒは僅かに目を見開いた後、口元に薄く笑みを浮かべた。 「……見事だ」 ヴァルドリッヒが低く呟き、剣を引く。 霧の谷を覆っていた濃霧が、戦いの余韻とともに少しずつ晴
@ 宿命の対決 霧が晴れ、静寂が広がる。セリスとヴァルドリッヒは互いに睨み合ったまま、一瞬の隙をも見逃さないように構えていた。「貴様の剣筋……以前よりも洗練されているな」 ヴァルドリッヒが目を細める。その口調には、僅かながら興味が混じっていた。「私には戦う理由がある。……過去を取り戻し、未来を切り開くために!」 セリスは強く剣を握りしめる。かつての彼女なら、ヴァルドリッヒを前に立ちすくんでいたかもしれない。だが今は違う。 ——記憶の継承。王家の血に刻まれた戦士たちの意思が、彼女を導いていた。「面白い」 ヴァルドリッヒが地面を蹴る。瞬間、彼の姿が消えた。 ——速い! セリスが反射的に剣を振ると、ヴァルドリッヒの刃が寸前で交差する。鋼と鋼がぶつかり合い、火花が飛んだ。「ほう……今のを受けるか」 ヴァルドリッヒがわずかに目を見開く。その剣撃は常人なら視認すらできないほどの速さだった。 セリスの呼吸が荒れる。だが、彼女はすぐに体勢を整えた。「……まだ、終わりじゃない!」 彼女は跳び退き、次の攻撃に備える。ヴァルドリッヒも再び構えを取る。 ——その時だった。「セリス!」 霧の向こうからライルとレオンの声が響いた。「……助太刀か」 ヴァルドリッヒは鼻を鳴らした。「だが、俺の相手はお前だけで十分だ。逃げるなよ、エルセリアの王女!」 ヴァルドリッヒが剣を振るい、再び激しい戦いが始った。 ヴァルドリッヒの猛攻が続く。剣閃が夜の闇を切り裂き、セリスの視界を埋め尽くした。 ——速い、そして重い! 一撃一撃が鋭く、並の剣士ならば防ぐことすら叶わないだろう。しかし、セリスは既に幾度もの戦いを経ていた。彼女の体は、受け継がれた王の記憶を通じて、最適な動きを導き出していく。 ガキィン! 刃と刃がぶつかり合い、激しい火花が散
@ 霧の谷の戦い 霧の谷の奥へと進むにつれ、霧はますます濃くなっていった。視界は数メートル先すらも霞み、音さえも吸い込まれるように静寂が支配する。「まるで霧そのものが生きているみたいだな……」カイが周囲を警戒しながら呟く。「この霧は帝国の魔術師たちが作り出したもの。きっと私たちを惑わせるための罠よ」ミアが慎重に歩を進める。「もしこのまま奥へ進めば、向こうの思うつぼね」「なら、どうする?」ライルが低く問う。「……霧の発生源を探して、そこを潰すわ」セリスの瞳が鋭く光る。「魔術師たちがいれば、必ずどこかに霧を操る中枢があるはずよ」「直接叩きに行くってことか。気に入ったぜ」レオンが肩を回しながら笑う。「だが、帝国の奴らもそう簡単にはやらせてくれねぇだろうな」 その言葉を証明するかのように——霧の奥から、鋭い金属音が響いた。 シャッ—— 霧の中から漆黒の刃が飛び出した。「ッ!」セリスは即座に身を低くし、それを回避する。刃は彼女の頭上をかすめ、地面に突き刺さった。「待ち伏せか!」ライルが剣を抜き、霧の中に向けて構える。 すると、霧の向こうから黒い鎧に身を包んだ帝国兵たちが現れた。その先頭に立つのは、一際異質な存在——漆黒のローブをまとい、手に魔法陣を浮かべた魔術師だった。「お前たちがエルセリアの残党か」魔術師が冷ややかに言う。「無駄な足掻きはやめることだな。王の剣は我ら帝国の手に渡る」「……やっぱり、帝国もこの場所を突き止めていたのね」セリスが剣を握りしめる。「お前たちをここで葬り、王の剣を手に入れる」魔術師が不敵に笑うと、その手の魔法陣が妖しく輝き始めた。「来るぞ!」レオンが咆哮するように叫ぶ。 帝国兵たちが一斉に襲いかかってきた——!「ミア、魔術師を止めて!」セリスが叫ぶ。「わかってる!」ミアは即座に魔法を展開し、敵の魔術師の詠唱を妨害するための符を投げる。しかし、帝国の魔術師もまた素早く防御の魔法を展開し、干渉を跳ね返した
@ 王の剣を求めて 聖なる泉の記憶を封じた鍵は、“王の剣”にある。 セリスは仲間たちと共に、オルディア連邦の市街地へと戻っていた。石碑から得た情報を整理するためだ。「王の剣……それがどこにあるか、何か手がかりはあるのか?」ライルが尋ねる。 セリスは考えながら答えた。「“王の剣”はエルセリア王家に伝わる最も重要な宝剣。でも、王国が滅びた時に行方不明になったとされているわ」「つまり、どこかに隠されたってことか」レオンが腕を組んだ。「そうね。ただ、記録によれば、王の剣は代々王の即位の際に使われてきたもの……となると、王家のゆかりの地に眠っている可能性が高いわ」「例えば?」カイが興味深そうに訊く。「……一つ、考えられるのは王家の墓所よ」 セリスの言葉に、場の空気が変わった。「エルセリア王家の墓所……か」ライルが静かに呟く。「だが、それがどこにあるか、分かっているのか?」「正確な場所は記録されていない。でも、手がかりはあるわ」 セリスは懐から石碑に刻まれていた文言を写し取った紙を取り出した。 『王の魂は銀の霧に包まれ、静寂の地に眠る』「銀の霧……?」ミアが眉をひそめた。「何かの比喩かしら?」「いや、それだけじゃない」カイが口を挟んだ。「俺が聞いた話だと、ゼルヴァニア王国の北に“霧の谷”って場所がある。年中霧が立ち込めてて、誰も近づかない土地らしい」「……それよ!」セリスの目が輝いた。「王家の墓所は、きっとそこにあるわ!」「だが、ゼルヴァニアか……」レオンが渋い顔をする。「帝国との小競り合いが増えている地域だ。向かうなら慎重にならないといけないな」「帝国も王の剣を探している可能性が高い。先を越されるわけにはいかないわ」セリスは決意を固めるように言った。「すぐに出発の準備をしましょう」「おっと、その前に確認しておきたいことがあるぜ」カイが不敵な笑みを浮かべる。「王の剣ってのは、ただ見つけりゃいいって代物なのか?」
@ 砂の遺跡 セリスたちは、砂蟲との戦いを終えた後も気を抜かずに歩を進めた。灼熱の太陽が照りつける中、地平線の向こうに見えてきたのは、半ば砂に埋もれた古代の遺跡だった。「……あれが、例の遺跡か?」ライルが目を細める。「間違いないわ」ミアが頷いた。「この遺跡には、かつて“聖なる泉”に関する記録が残されていたはず。でも、帝国も狙っている可能性があるわね」「だったら急ぐしかねぇな」カイが軽く肩をすくめる。「俺たちより先に帝国の連中が入り込んでたら、面倒なことになるぜ」 セリスは改めて剣の柄を握りしめた。「行きましょう。何が待ち受けているにせよ、手がかりを見つけなければ」 ◆ 遺跡の入り口は、長年の風と砂によって崩れかけていたが、わずかに開いた隙間から中へと入ることができた。 内部はひんやりとした空気に包まれ、石造りの壁には、かすかに残された古代文字が刻まれている。「これは……エルセリア王国時代の記録?」ミアが指で壁をなぞる。 レオンが腕を組んで呟く。「この遺跡、もしかするとエルセリア王国の王族と関係があるのかもしれんな」「ええ……ここには、私たちが探している“聖なる泉”の記録があるはず」セリスの瞳が輝く。 だが、そのとき—— カチッ ライルの足元で小さな音が鳴った。「……!」「しまった、罠だ!」ミアが叫ぶ。 ガコン! という重い音とともに、天井から無数の矢が降り注いだ。「くっ!」ライルが剣を振るい、迫りくる矢を弾く。「みんな、伏せろ!」レオンが素早くセリスを抱え、床に身を伏せる。 カイは軽やかに後方へ跳び、ミアは魔法の障壁を展開して矢を防いだ。「罠があるってことは……」カイが息を整えながら言う。「つまり、この先に何か重要なものがあるってことだな」「ええ、それだけ貴重な情報が隠されている証拠ね」ミアが慎重に歩を進めながら言う。「気をつけて。まだ何が仕
@ 聖なる泉へ オルディアの夜は静かだった。だが、セリスたちの胸の内には嵐のような決意が渦巻いている。「聖なる泉に向かうとして、問題はどうやってそこに辿り着くかだな」カイが地図を広げながら言った。「確か、オルディア連邦の砂漠地帯にある遺跡に泉の手がかりがあるんだろう?」ライルが確認する。「ええ。だけど、その遺跡には帝国の部隊がすでに向かっている可能性が高いわ」ミアが険しい顔をする。「しかも、あそこは古代の魔法が今も残っている。危険な罠もあるはずよ」「まあ、今さら危険だからやめようって話にはならねえだろ?」カイが笑う。「当然だ」セリスが真剣な目で答える。「私たちは、絶対に聖なる泉へたどり着かなきゃいけない。帝国が歴史を改ざんする前に!」 レオンが腕を組み、唸るように言った。「帝国が泉を狙う理由はわかった。だが、俺たちが行くなら、それ以上の覚悟が必要だぞ」「分かってる」セリスは強く頷く。「私は、エルセリア王国の記憶の継承者として……この世界の真実を取り戻す」 彼女の決意に、仲間たちも深く頷いた。「よし、なら出発は明朝だな」ライルが言う。「オルディアの市場で物資を調達して、それから砂漠へ向かおう」「帝国が本格的に動き出す前に、先に手がかりを見つけるぞ」カイが軽く拳を握る。 こうして、セリスたちは次なる目的地──聖なる泉の手がかりを求め、砂漠の遺跡へと向かうことになった。 夜が明けると同時に、セリスたちはオルディアの市場へ向かった。砂漠を越えるには十分な水と食料、そして特殊な装備が必要だった。「砂嵐対策に、この布を持っていくといいよ」 商人から渡されたのは、砂漠の民が使う防護布だった。顔を覆うことで、砂塵から身を守ることができるらしい。「ふむ、なかなか実用的だな」ライルが手に取りながら頷く。「砂漠の暑さと夜の寒さ、両方に耐えられる装備も必要だ」「まったく、砂漠ってのは面倒な場所だぜ」カイがぼやきながら、軽装の防具を選んでいた。「魔法の冷却石







